『狐の嫁入り』
歴史・民話
『狐の嫁入り』は日本各地に古くからある言い伝え話です。
今も昔も子供たちには、ちょっと怖いでも覗いてみたい。そんな神秘的な世界への憧れがあるのです。
狐は「田畑の守り神」「収穫した五穀の守り神」「商売繁盛の神」等として崇められる反面、人を化かす狡賢い動物として狸とともに語られてきました。狐は特に頭に草や木の葉を載せて化けるためお洒落な女性のイメージが強いようです。
晴れているのに雨が突然降ってくると、この説明しずらい不思議な現象を昔の人は「狐の仕業」として解決していたようです。
子供たちは雲の上を狐の花嫁の一行が歩く姿をそれぞれに想像しました。そのあとに出る虹がドラマを一層幻想的なものにしました。
昔の日本では嫁入りは夕刻行われたそうです。花嫁の一行は提灯を手にし嫁入り道具と供に嫁ぎ先に向かいました.
暗い夜道の中の厳かな行列は子供たちの目にはどのように映ったのでしょうか?
しかし、嫁入りの予定がない夕刻に提灯の行列を観たり,近くによると消えてしまったりした時、人々はこの不可解なな現象を狐の仕業とし「狐火」と言ったり「狐の嫁入り」と言ったのでしょう
『狐の嫁入り』は神秘的なもので「人間には見せない」また「見てはいけないもの」でした。
それ故に子供たちは怖いもの見たさに心を震わせ、今の時代の私たちにさえ底知れない好奇心を抱かせるのです。
『狐の嫁入り』についての各地の言い伝えは少しずつ違います…どれが正しくどれが間違いというものでもありません。その土地その土地の特徴と考えたほうがよいでしょう。
『狐の嫁入り』の伝説が日本にいつ頃根付いたのかわかりませんがずいぶん古い時代です。
もしかすると米作文化の伝来時、もしくは仏教の伝来時かもしれません。
この伝説を共有するのはスリランカ、マレーシア、インド、韓国(韓国では「虎の婿入り」も)などです。ネパールでは天気雨の後、虹が出て狐の鳴き声がすると、「狐の結婚式があったね」と言われる話しを聞きました。いずれにしても米作文化、仏教文化は共通項ですね。(でも中国には無いの???)
これらの国では英訳 Fox Wedding で言葉の裏の意味が通じると思いますが、欧米ではそのままにしか理解されないようです。
「狐」=田畑や米蔵を荒らす鼠を退治する。
「天気」=米の収穫に必要な日照り。
「雨」=米の収穫に必要な恵みの雨。
「嫁入り(結婚)」=米を守る狐の子孫繁栄。
「虹」=これ等すべての好事を象徴する超常現象。
『狐の嫁入り』に含まれるこの5つの要素は我々農耕民族の祖先が望んでいたものではないでしょうか。
「川越」と「狐」
江戸時代の諺に江戸に多きものとして「伊勢屋、稲荷に犬の糞」があります。
それほど大小の「お稲荷様」が江戸にはありました。
世界一の大都市、江戸には数多くの商家や民家があり、人々の願い事が予言能力のある神の使い「狐」に託されました。花柳界の女性の人気を集めた稲荷もあります。古来、川越は江戸と同じ武蔵の国の中にあり「小江戸」と呼ばれ、「江戸の台所」とも呼ばれ江戸と共有の文化を持つ地域でした。
川越と日本橋の両方に店を持つ豪商も多く、江戸趣味がそのまま引き継がれています。
川越を歩くと市街地、郊外を含め稲荷神社の社や祠が目につきます。そして数々の「狐」にまつわる話が残されています。